
承認(Consent)段階のウェブ活用
BtoBの購買プロセスであるASICAモデルの承認ステップでは、候補を絞り込んだ購買担当者は、同僚や上司などの関係者から承認を得なければならない。本人が良いと感じればすぐに購入できるBtoCにはない、BtoBに特徴的なステップだ。
説得の対象となる関係者は、その製品を利用する立場か否かによって、大きく2つに分かれる。同僚はその製品を使う立場であることが多い。担当者は同僚も含めた利用者グループの中から製品選択・購買を任されたに過ぎず、担当者も同僚も製品選択の視点は、性能や使いやすさ、納期という点で一致している。ただし同僚は、担当者が選んだ製品とは異なる候補を挙げてくる場合があるため、担当者の製品がなぜ他よりも優れるのかということが説明できなければならない。
一方、予算権限者である上司の視点は、予算をいかに無駄なく効果的に使うかということにあるため、メーカーの知名度や実績、安定性、および費用対効果に着目することになる。製品に関する知識が豊富とは限らない上司には、その製品を選ぶ理由を簡潔に伝えなければならない。
この多様な視点に応える上でも、情報量や時間に制限のないウェブサイトは、とても役に立つ。部内の同僚や上司に対し、その製品の購入を推奨する場面を想像してみよう。担当者は自身で、製品の基本的な情報や選択理由をプレゼン資料にまとめなければならない。ウェブサイトならば、こうした情報を加工可能な形で提供することが出来る。スペックのエクセル形式でのダウンロードは基本的な機能だが、欧米では、シミュレーション結果やウェブ上で作成した比較表のダウンロード機能を備えるサイトも増えている。残念ながら、日本のBtoBサイトのスペック情報は、加工性の低いHTML(通常のウェブページ)かPDFで提供されていることが多い。紙の時代は完成された形での情報提供しか出来なかったが、ウェブを通じたコミュニケーションにおいては、情報利用者の加工ニーズにも応えていかねばならない。
上司が最も関心があるのは、導入の効果だ。効果の試算機能は、単純にコスト削減額を算出するものから、旧モデルとの比較、競合他社との比較など、様々なバリエーションがある。独シーメンスのウェブサイトでは、産業用モータの効果試算ソフト(図1)を無料で配布しており、利用者は特定条件下での性能を過去製品と比較したり、価格上昇分をどの位の期間で回収できるかを試算したりすることができる。このシミュレーションツールの使用法を分かり易く記した資料もダウンロードすることが出来るのだが、丁寧なことに、練習問題まで付いている。9言語での使用が可能であり、このツールを使ってもらいたいという、シーメンス社の意気込みが感じられる。
スペックや効果試算は承認に必要な最低限の情報だが、同僚が提示する他の製品候補に比べた優位性を示すには、もうひと工夫が求められることもあるだろう。米アナログ・デバイセズでは、自社のチップセットを選んでもらうための様々なコンテンツを提供している(図2)。同社サイトでは、実際の設計に役立つ回路集やサンプル品の無料提供によって試作を促し、チップ単体に関する数値情報から一歩進んだ説得力あるデータを作成するためのサポートをしている。
ヴァーチャル展示会も、今後活用が増えてくるだろう。物理的な展示会に比べて参加者で6割、主催者側では2割しかコストがかからないことから、純粋なコスト削減目的で注目を集めているが、現地に足を運ぶ時間のない上司に製品のデモを見てもらうなどの使い方も考えられる。とかく文字では伝えにくい製品の特性を直感的に理解させるのに、うってつけのコンテンツと言えるだろう。
行動(Action)段階のウェブ活用
企業購買プロセスのウェブ化に向けて
結び
行動(Action)段階のウェブ活用
選択した製品が関係者の承認を得られれば、いよいよ行動の段階である。その意味するところは狭義では、購入行為そのものとなるが、ここではその後の顧客関係の維持までを含めて考えたい。
配送可能な製品のECは発展が顕著で、オンライン書店のアマゾン並みに簡単に注文できるウェブサイトが国内にも見られるようになってきた。ミスミのウェブサイト(図3)では、製品の基本情報やCADデータのページで加工方法を細かく指定し、納期を確認した後、そのまま見積・発注を行うことができる。また、同製品の他の閲覧者が訪れた類似・関連製品ページを紹介するなど、追加の売り上げにつながる細かい工夫が為されている。
代理店制を敷いている米Texas Instruments(図4)では、メーカー在庫のみならず、代理店の在庫と納期も公開しており、代理店のECから製品を購入することが出来るようになっている。ECを行っていなくとも、製品型番と郵便番号を入れることで、最寄りの代理店を紹介するメーカーサイトもある。オンラインでのメーカー・代理店連携は、代理店支援の重要なテーマになってくるだろう。
購入後の顧客関係の維持は、接点確保とその活かし方にかかっている。ここでも、顧客が思い立ったらいつでもアクセス出来るウェブサイトが果たす役割は大きい。接点確保の1つの機会はサポートである。BtoB各社は、ナレッジセンターやサポートフォーラム、FAQ(Frequently Asked Questions:よくある質問)などを取り揃え、ユーザーが自己解決することを全面支援することで、サポートコストの削減と解決のリードタイムの短縮の両方に取り組んでいる。中にはFAQをもじって、RAQ(Rarely Asked Questions:あまりない質問)を設けているサイトもある。アプリケーションが多岐に渡るBtoB製品においては、購入前も購入後も、顧客が明らかにしたいと感じる不明点には様々なものがあるはずで、少数派の質問にも答えようとする姿勢は好感を与える。さらにもし本当に課題が解決したならば、顧客の期待値が低い分、満足度はより高まるかもしれない。低コストで無制限のスペースを活かしたユニークなコンテンツと言えるだろう。
それでも解決しない場合には、電話やメールの問い合わせを受け付けるのだが、米Tyco Electronics(図5)の様に、チャットによる相談を受け付ける企業も増えてきた。Tycoでは英・独・中国の3言語でのサポートを行っている。チャットはキーボード入力による会話だが、メールによる問い合わせよりもリアルタイム性が高く、電話よりも頭の中を整理して会話しやすく記録に残せるなどの利点から、若い世代を中心に利用が増えている。ゆくゆくは、コールセンターならぬチャットセンターを用意することが、どの会社にとっても当たり前のことになってくるのかもしれない。
ウェブサイトでは、迅速・的確なサービスでロイヤリティを高めるだけでなく、サポート目的の来訪時に、後継品をさりげなく売り込むことも可能だ。オムロンの制御機器・FAシステム事業サイト(図6)では、型番入力によるカタログやマニュアルの提供を行っているが、その製品の代替品が出ていれば、検索結果にその旨が表示され、代替品のページに飛ぶことが出来る。サイトへの来訪目的にはしっかり応えた上で、きちんとワンプッシュをしている好例だ。
その他、オンライントレーニングや、メールマガジンを実装するBtoBウェブサイトも増えてきた。この様に、製品販売後にウェブが果たせる役割は大変幅広い。また、今回紹介した機能は初期投資こそかかるが、一旦整備をしてしまえば、どんな規模の来訪数でもほとんど追加コストなく対応することが出来る。地域によってモデルが異なるBtoC製品とは違い、BtoBの場合はグローバルにモデルが統一されている、もしくはそれに近いため、開発した機能はグローバルに利用することも可能なことが多い。ライフサイクルの長いBtoB製品から派生する各種の売上機会を確実に取り込むには、守備範囲が広くコストの安いウェブサイトと、ピンポイントでかゆい所に手の届く営業マンとを上手に組み合わせて対応していきたい。
企業購買プロセスのウェブ化に向けて
結び
企業購買プロセスのウェブ化に向けて
前回と今回の2回に分けて、企業購買プロセスのウェブ化にどのような可能性があるのかを説明してきた。紹介した事例のいくつかはすでに何年も前から存在しており、機能も随時強化されている。ユーザーからの支持がある証であろう。
今回の連載にあたっては、読者にとって身近な事例をお見せしたかったので、日本企業のサイトを探しまわってみたが、結果的には大半が欧米企業のものとなってしまった。新しい機能も進んで取り入れる進取の気性が存在することや、すでに整備されている社内・代理店システム向け機能が再利用できることなどが、欧米企業のウェブサイトが一歩も二歩も先を行っている理由だが、日本企業がこのままで良い訳がない。
では、どうすれば良いのか?購買プロセスのウェブ化を進めるためには、①事業部の啓蒙、②グローバル視点の強化、③社内IT資産の棚卸、を行うことが必要だ。
①事業部の啓蒙
企業の対外コミュニケーションには、広報・宣伝部が企業や製品の認知を高め、事業部が個々の製品に関する詳細な情報を提供するという役割分担がある。大企業のウェブサイトは、広報・宣伝系の部署が主管することが多いが、本来のミッションに照らし、ウェブサイトにおいても企業・製品の認知度向上部分に注力することになる。ここで論じている購買プロセスのウェブ化は、当然、事業部がカバーしなければならないのだが、事業部のウェブ担当は日々のメンテナンスに追われ、長期的視点で取り組まねばならないこの手の施策は、どうしてもなおざりとなってしまう。事業部任せでは、この状況はなかなか改善されないだろう。
結局現状では、大企業のウェブ関連施策においてリーダーシップをとれるのは、広報・宣伝系のウェブ主管部署しかない。機能要件の詳細化や実際の開発は事業部主導でやってもらうにしても、他社事例を紹介するなどで、事業部門自身にウェブ活用の可能性と必要性を理解してもらうことは、購買プロセスのウェブ化を進める上での欠かせない一歩だ。
②グローバル視点の強化
とは言うものの、ウェブ主管部門が事業部とのコミュニケーションを怠っている訳ではないことは、筆者も理解している。しかしそれは、国内担当とのものに偏っていないだろうか。だが、日本では電話一本で営業マン・サービスマンが駆け付けられる営業網が出来上がっている。国内市場が飽和していることまで考えれば、新規投資を必要とする購買プロセスのウェブ化が真剣に議論されないのも、当然と言えば当然だろう。
翻って海外市場は、多くの日本企業にとって成長の源泉だ。しかし営業網は発展の途上にあり、顧客やニーズの所在もつかみ切れてはいない。営業やサポートにおける本社の支援も必ずしも十分ではない。また海外市場では、進んだウェブサイトを持つ欧米企業と競合する場面も多い。こうした背景から、事業部の海外担当は、ウェブの充実化の必要性を感じていることが多い。グローバルな視点を持つ彼らの声は、購買プロセスのウェブ化を推進する中核的な原動力となるはずである。
③社内IT資産の棚卸
欧米が進んでいるのは、良く出来た社内もしくは代理店向けシステムがベースとなっているからだと、先に述べた。紹介した機能の多くでシステムが絡むため、これらをゼロから作るとなるとそれなりのコストがかかる。しかし、社内のIT資産を棚卸ししてみると、性能シミュレーションやコンフィギュレータ(オプション構成・見積)、事例DB、デモCD、トレーニングビデオなど、ウェブ化すれば顧客に喜ばれる開発済みのソフトウェアやデータがいくつも見つかるはずだ。ソフトをウェブ上で利用できるようにするにはコストがかかることもあるので一概には言えないが、事業部内に眠るこうした資産を活用することが出来れば、予算や時間を節約しながら、購買プロセスのウェブ化を進めることが可能となるだろう。
結び
繰り返しになるが、事業部の巻き込みなくして、購買プロセスのウェブ化はあり得ない。広報・宣伝部に属するウェブ主管部門にとって、事業部セクションの機能・コンテンツに関わることは、これまでの広報・宣伝部のあり方に照らせば、その範囲を逸脱しているのかもしれない。だが、ウェブの登場で、これまでになく深い対外コミュニケーションが出来るようになったにも関わらず、事業部はその特性を活かせていない。
自社を理解してもらうことこそが広報・宣伝部の本来の責任だとするならば、事業部のウェブ活用を積極的に後押しすることは、ウェブ時代の広報・宣伝部の重要なミッションとなるはずである。
第1回 ウェブ活用の現状と可能性
第2回 企業購買プロセスのウェブ化(1)
第3回 企業購買プロセスのウェブ化(2)
第4回 BtoCウェブサイトに学ぶ(近日公開予定)
第5回 連結視点とグローバリゼーション(近日公開予定)

気賀 崇
イントリックス株式会社 代表取締役社長
1994年慶応大学総合政策学部卒業後、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンに入社。ニューヨーク本社の国際株式投資部にて日本/アジア株のアナリストを務める。海外インターネットビジネスへの投資に携わった後、2000年サイエント株式会社入社。eビジネス戦略策定に従事する。2007年サイエント ジャパン株式会社取締役に就任。サイト群・グローバリゼーション事業の責任者として、機械・電機・精密機器・通信・制御機器・事務機メーカーのサイト群プロジェクトをリード。2009年8月、イントリックス株式会社を設立。代表取締役社長に就任。BtoB企業を中心に連結/グローバル視点でのWeb活用を支援している。(社)日本産業広告協会 BtoBコミュニケーション研究会 WEB部会座長
※この記事は、社団法人日本産業広告協会(IAAJ)の発行する月刊誌『産業広告』に掲載の連載を、著作権者の許諾を得て転載しているものです。
- 記事種別:解説/ノウハウ
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
- タグ:B2B
- タグ:BtoB
- コーナー:BtoBメーカーのウェブ活用
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:企業購買プロセスのウェブ化(2)/BtoBメーカーのウェブ活用 第3回 [BtoBメーカーのウェブ活用] | Web担当者Forum
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